ひとそだちの応援団 研修の現場から

人材育成のヒントやお役立ち情報を掲載しています。


会議室に入った瞬間、空気が重く感じることがあります。
それは意欲のなさではなく、諦めの空気です。

「どうせ会社は変わらない。」
「上の方針に合わせるしかない。」
「また研修か、現場を知らない人が何を言うのか。」

そんな言葉が、声にならずに漂っています。
誰もが「仕方ない」と思っています。
しかし、その“仕方ない”という気持ちこそが、
会社の成長を止めているのです。

ある管理職の方が言いました。
「自分はもう分かっている。経験もあるし、部下も見てきた。」

けれど、“分かっている”という言葉ほど、危ういものはありません。
その瞬間、人は学ぶことをやめ、変化を拒みます。
組織を停滞させる最大の要因は、無知ではなく、慢心です。

研修を受けても何も変わらない——。
そう感じる人も多いでしょう。
けれど、本当に変わらないのは会社ではなく、
「自分自身」ではないでしょうか。

部下が報告をしないのは、
上司が耳を傾けていないからかもしれません。

部下が意見を言わないのは、
上司が否定する空気を作っているからかもしれません。

部下が動かないのは、
上司が背中を見せていないからかもしれません。

そう問いかけられると、誰もが少し黙ります。
なぜなら、それが“痛いほど真実”だからです。

上司という立場は、
部下を動かすための権限ではなく、
自らを映す鏡だと思います。

部下の姿に苛立ちを感じる時、
それは自分の未熟さを映しているのかもしれません。
部下の変化が見られない時、
それは上司が変わろうとしていないサインかもしれません。

「会社が変わらない」と言う前に、
まず自分の会話と態度を変えてみることです。
「忙しい」と言う前に、
一人ひとりの表情を見てみることです。

変化とは、大きな改革ではなく、
毎日の小さな姿勢の積み重ねから生まれます。

リーダーとは、誰かを責める人ではありません。
誰よりも先に、自分を変えようとする人です。
部下が育たないと嘆く前に、
自分が「育てる上司」であるかどうかを見つめ直したいものです。

鏡の中には、
変わらない会社を映す、変わろうとしない自分がいます。
その自分を正面から見つめたとき、
会社は静かに、しかし確実に動き出すのです。


                    K&Yでは、管理職研修を実施しています。

詳しくは、コチラをご覧ください。


今年も、恒例となった育成担当者研修を実施しました。
この会社でスタートしてから、もう4年目になります。
なんと今回は、
1年目に受講してくれた育成担当者が育てた新入社員2名が、
今年は新たな育成担当者として研修に参加してくれました。
「育てられる側」から「育てる側」へ。
まさに育成のバトンが、
しっかりと引き継がれていることを実感しました。

1回目育成担当者の悩みと葛藤
最初の研修を実施したのは、
ちょうどコロナが落ち着き始めた頃でした。
マスクをしたコミュニケーションが当たり前となり、
学生時代に活動を制限されていた新人たちを
どう指導すればいいのか、
育成担当者はたくさんの悩みを抱えていました。

Aさん:新人が自分から挨拶してくれないんです。
    声も小さくて、聞き取れないこともあって。
Bさん:「はいっ」て返事してるんですけど、
    わかってるのかどうか全然伝わらないんですよね。
Cさん:みんな真面目なんですけど・・・
    なんだか元気がないというか、覇気がなくて・・・。
年齢はさほど離れていないのに、
全く違う学生時代を過ごしてきた後輩たち。
「何を考えているのかわからない」
「どう接していいのかわからない」という戸惑いを
率直に話してくれました。

研修で伝えたメッセージ
そのとき私が伝えたのは、ズバリ解決策ではありませんでした。
私:後輩を育てることは、 
  実は自分を成長させる一番のチャンスなんです。
私:悩むっていうのは、それだけ真剣に向き合っている証拠ですよ。
  人を育てるのに悩みはつきものです。
私:新人育成は、担当者一人で頑張らなくてもいいんです。
  チームや組織全体で取り組むことが大切です。

そして最後に、応援する気持ちを込めてこう伝えました。

私:だから、一人で抱え込まないでください。
  困ったときは先輩に相談してみましょう。
  そして、あなたを育ててくれた先輩も、
  きっと同じように悩みながら育ててくれたはずです。
  そのことに感謝して、一緒に頑張りましょう!

その瞬間、会場の空気が少し柔らかくなり、
参加者は大きくうなずいていました。

4年目に感じた成長
それから4年目。
当時「声が小さい」「覇気がない」と言われていた新人たちが、
今度は、後輩を指導する立場になって
育成担当者研修に参加しています。

研修中、時間を守る、挨拶をする、
話を聞きながらメモを取るといった基本の姿勢が
自然とできている様子に、これまでの育成の積み重ねを感じました。

また、ある育成担当者がこう話してくれました。
Dさん:どう伝えればいいか悩むこともあります。
   でも、上司に相談したり先輩にアドバイスをもらいながら、
   工夫して取り組んでいます。
その言葉には、後輩と真摯に向き合う覚悟と
誇りがにじんでいました。

育成の連鎖が未来をつくる
育成担当者が、ときには厳しく、
ときには寄り添いながら後輩を育ててきた。
その経験は、本人自身の自覚と成長意欲を大きく高めています。
そして今、育成の連鎖が確かに生まれています。

未来を担う彼らの活躍を、心から応援したいと思います。


「指導担当者あるある」として、
新入社員をいちばん近くで見ている「指導担当者」の裏話を、
ちょっとだけご紹介します。

K&Yでは、新入社員を迎える準備として、
指導担当者向けのスキルアップ講座も行っています。
その講座の中で必ず出てくる話題があります。

それは・・・
「新人の業務日誌、コメントって必要なんですか?」

この問いに、「あ…読んだ印にサインだけ…」と
苦笑いされる方が少なくありません。

でも実は、業務日誌は「読む」だけでなく、
“励まし・共感・フィードバック”を伝える大切な場でもあるのです。

もしあなたが指導担当者だったら?
以下は実際にありがちな日誌の一文と、それに対するコメント例です。
どれもほんの一言ですが、“心を動かすやり取り”が見えてきます。

① 新人:「今日は入社式がありました。いよいよこの会社の一員になれたのだと嬉しく思いました。」
→指導担当者:「入社おめでとうございます!
早く会社に慣れてもらえるよう、私も全力でサポートします!」

② 新人:「電話応対の練習をしました。緊張しましたが、頑張りました。」
→指導担当者:「緊張しながらも真剣に取り組めていて素晴らしいです!
その調子で成長していきましょう。」

③ 新人:「今日は特にこれといった出来事はありませんでした。」
→指導担当者:「気持ちに少し余裕が出てきた証拠かもしれませんね。
どんな小さなことでも記録に残すと、成長のヒントになりますよ。」

④ 新人:「業務の説明を受けました。伝票の書き方は、間違えないように気をつけたいと思います。」
→指導担当者:「業務で正確さを意識できているのは素晴らしい視点です。
さすがですね!」

⑤ 新人:「いつもコメントありがとうございます。楽しみにしています。」
→指導担当者:「こちらこそ、毎日日誌を読むのが楽しみです!
一緒に頑張っていきましょう。」

私自身も、新人だったころ、日誌を書いて提出するのが日課でした。
翌朝、自分の机に置かれている日誌を開き、
まず先輩や上司のコメントを読んで、ホッとしたことを覚えています。

もしかしたら、あの頃コメントを書いてくれていた方々も、
「今日は何を書こうか」と悩んでいたのかもしれません。
それでも、どんな内容の日誌にも必ずひと言添えてくれていたことが、
何より心強く、ありがたい記憶として残っています。

指導担当者のコメントは、まるで返事のないラブレターのよう。
それでも、ときどき返ってくる「ありがとうございます」の一言が、
大きな励みになるのです。

だから今日も、ひと言を大切に。
新人の心に届くコメントは、長さではありません。
「あなたを見ているよ」「応援しているよ」そんな想いが、
行間から伝わるかどうか。

今日もまた、自分のひと言が誰かの背中をそっと押すことを信じて。
愛あるコメントを贈っていきたいと思います。


「何を考えているのかわからない」の奥にあるもの
~~~新入社員研修で気づいたこと

新入社員研修の場で、企業の担当者の方からよくこんなお話を伺います。

「今年の新入社員は、言われたことはきちんとやるんです。
でも、こちらの問いかけに反応がなくて…
何を考えているのかよくわからなくて」

実は、私自身も毎年1歳ずつ年齢を重ねるなかで、
新入社員がどんどん若くなり、
とうとう自分の子どもより年下の参加者が多くなってきました。
正直なところ、「今の若い人たちは何を考えているのかな」
「本音ではどう感じているのかな」と思う場面も増えてきました。

そんななか、ある出来事が心に残りました。

研修中、一人の女性が、緊張しているのか表情も硬く、
返事も挨拶も小さな声で、周囲を気にしている様子でした。
一生懸命なのは伝わってくるものの、
「もう少し自信を持って声を出せたらいいのに…」と感じていました。

休憩時間、その彼女が私のそばに来て、
ほとんど聞き取れないほどの小さな声でこう言いました。
「ホワイトボード、消してもいいですか?」
私は驚きながらも、「お願いできる?」と伝えると、
彼女は丁寧に丁寧にボードを消してくれました。

お礼を伝えると、彼女はまた小さな声でこう言ってくれました。
「先生が講義の中で、『周りを見て自分にできることを探して
声をかけてください』って言っていたので……」

私は思わず、「そうだったんだね。気づいただけでもすごいことなのに、
実際に声をかけるなんて、本当に勇気がいったでしょう?」と
声をかけました。

彼女は小さくうなずきながら、こう返してくれました。
「はい……。もっと大きな声を出さなきゃとは思ってるんです。
でも、このタイミングで言っていいのか、
迷惑じゃないか……いろいろ考えてしまって、なかなか言えなくて」

このエピソードには、新入社員に関わるうえで
とても大切なヒントがいくつも詰まっていると思います。

①「反応がない=何も考えていない」ではありません。
むしろ、たくさんのことを真剣に考えているからこそ、
動けないという姿があるのだと気づかされました。
新入社員は、「どう見られるか」「正解は何か」
「失敗したらどうしよう」など、頭の中がいっぱいなのです。
その結果、反応が遅くなる、言葉にできない、動きが止まる・・・
そんな状態が起きるのです。

②ホワイトボードを消す。たったそれだけの行動かもしれません。
でもその背景には、
「自分にできることを探した」
「声をかけるタイミングを計った」
「外部講師という年上の大人に話しかけた」
という、たくさんの考えと葛藤、そして勇気ある一歩がありました。
行動の大きさではなく、「その人にとってどれだけ挑戦だったか」に
目を向けることが育成の本質です。

③上司や経営者は「優しいつもり」「フレンドリーなつもり」でいても、
相手にとっては「すごく年上で、ちょっと怖い存在」に映っている
ことがよくあります。

新入社員の多くは、社会人としての“最初の他人との接触”に、
常に緊張と不安を抱えています。
だからこそ、「話しかけやすさ」や「見守られている感覚」を
意図的につくる必要があるのです。

この経験から、私はあらためて実感しました。
「わからない」の奥には、言葉にならない思考や努力がある
小さな行動の中にこそ、“成長の種”が宿っている
育成は“教える”だけでなく、“信じて見守る”ことも含まれる

新入社員は、未来そのものです。
だからこそ、私たちがその未来にどんな期待を寄せ、
どんなまなざしで関わるかが、とても大切だと感じます。

「何を考えているのかわからない」――
その言葉の先には、たくさん悩み、迷いながらも、
今を一生懸命生きている若者たちの姿があります。

彼らがこれからどんなふうに社会人として育っていくのか。
その成長をそばで見守れることは、
上司として経営者として何よりの喜びです。


毎年のことながら4月は新入社員研修が目白押しでした。
講師にとっては、とりわけ神経を使います。
全く白紙の新社会人に対して、
決して自信を無くさせてはいけないと強く感じているからです。
これからの明るい未来に向かって希望をもって進んでほしいからです。
おかげで講師たちは新入社員の皆さんから、
たくさんのプレゼント(学びや気づき)をもらうこともあります。
今回はその中の一部を紹介します。
今回から数回にわたってお届けします。

プレゼント その1
中小企業で、少人数の新入社員研修を担当したときのことです。
対象は全員20代前半の新社会人。
終日、「社会人としての基礎力」と「ビジネスマナー」について
お伝えしました。

長時間の研修で疲れたり飽きたりしないよう、
途中にはペアワークやコミュニケーションゲームも取り入れました。
少人数だったこともあり、一人ひとりの様子を丁寧に見ることができ、
細かなミスがあればその場で具体的に指摘し、
正解が導けた時には、全力でほめました。
講師としても、とてもやりがいを感じる時間でした。

研修の最後に、参加者一人ひとりに感想を話してもらいました。
「正しい言葉遣いを知れてよかったです」
「名刺交換の手順が分かりました」
「営業の仕組みが理解できました」
といった感想が続き、順調に進んでいたのですが・・・

最後の一人が、少し照れながらもこう言いました。
「講師の先生がすごく楽しそうに仕事をしていて、
仕事って楽しいものだと分かりました」

少し驚いて、「え?私が楽しそうだったのが印象に残ったの?」と聞き返すと、
満面の笑みでこう言ってくれました。

「はい!先生、本当に楽しそうでした。
私は正直、仕事って大変なもの、辛いものだと思っていました。
でも、先生が一日中楽しそうに仕事をしているのを見て、
好きな仕事をするってこんなに楽しいことなんだ、
と気づきました。ありがとうございました」

胸がいっぱいになりました。

研修終了後、新入社員と同じく
終日立ち会ってくださっていた人事担当の方が、
私に話しかけてくださいました。

「もしかしたら、私たち上司や先輩は、
新人たちに『仕事は大変なもの』『辛くてもやらなきゃいけないもの』という姿しか
見せられていなかったのかもしれません。
先生が全力で叱ったり、
全力でほめたりしてくれたように、
私たちも『この仕事って実は楽しいんだよ』
『この仕事にはこんなやりがいがあるんだよ』ということを、
職場の中で自然に伝えていくことが大切なんですね。
今日は大きな気づきをありがとうございました」

新入社員と向き合う時間は、
未来と向き合う時間でもあります。
だからこそ、こちらの姿勢や言葉一つひとつが、
彼らにとっての“仕事の原風景”になるのかもしれません。

そして、ふと思いました。
新入社員にとって、「仕事って楽しいんだよ」と伝えてくれる先輩は、
どれだけいるでしょうか?
気づけば、先輩たちが見せているのは
「大変さ」や「忙しさ」ばかりかもしれません。
もちろんそれも現実ではありますが、
そこに「楽しさ」や「やりがい」も含まれていること、
それを先輩が自分の背中で伝えていくことが、
何よりの関わり方なのではないか・・・
今回の研修を通じて、そんなことを学ばせてもらった気がします。

新入社員と接することで、既存の社員もまた、
新たな気づきや自分のあり方を見直す機会をもらっているのだと感じました。
教えることで学ぶ。
それを、まさに実感した一日でした。


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