新人研修のあとでちょっとだけ思ったこと その2
「何を考えているのかわからない」の奥にあるもの
~~~新入社員研修で気づいたこと
新入社員研修の場で、企業の担当者の方からよくこんなお話を伺います。
「今年の新入社員は、言われたことはきちんとやるんです。
でも、こちらの問いかけに反応がなくて…
何を考えているのかよくわからなくて」
実は、私自身も毎年1歳ずつ年齢を重ねるなかで、
新入社員がどんどん若くなり、
とうとう自分の子どもより年下の参加者が多くなってきました。
正直なところ、「今の若い人たちは何を考えているのかな」
「本音ではどう感じているのかな」と思う場面も増えてきました。
そんななか、ある出来事が心に残りました。
研修中、一人の女性が、緊張しているのか表情も硬く、
返事も挨拶も小さな声で、周囲を気にしている様子でした。
一生懸命なのは伝わってくるものの、
「もう少し自信を持って声を出せたらいいのに…」と感じていました。
休憩時間、その彼女が私のそばに来て、
ほとんど聞き取れないほどの小さな声でこう言いました。
「ホワイトボード、消してもいいですか?」
私は驚きながらも、「お願いできる?」と伝えると、
彼女は丁寧に丁寧にボードを消してくれました。
お礼を伝えると、彼女はまた小さな声でこう言ってくれました。
「先生が講義の中で、『周りを見て自分にできることを探して
声をかけてください』って言っていたので……」
私は思わず、「そうだったんだね。気づいただけでもすごいことなのに、
実際に声をかけるなんて、本当に勇気がいったでしょう?」と
声をかけました。
彼女は小さくうなずきながら、こう返してくれました。
「はい……。もっと大きな声を出さなきゃとは思ってるんです。
でも、このタイミングで言っていいのか、
迷惑じゃないか……いろいろ考えてしまって、なかなか言えなくて」
このエピソードには、新入社員に関わるうえで
とても大切なヒントがいくつも詰まっていると思います。
①「反応がない=何も考えていない」ではありません。
むしろ、たくさんのことを真剣に考えているからこそ、
動けないという姿があるのだと気づかされました。
新入社員は、「どう見られるか」「正解は何か」
「失敗したらどうしよう」など、頭の中がいっぱいなのです。
その結果、反応が遅くなる、言葉にできない、動きが止まる・・・
そんな状態が起きるのです。
②ホワイトボードを消す。たったそれだけの行動かもしれません。
でもその背景には、
「自分にできることを探した」
「声をかけるタイミングを計った」
「外部講師という年上の大人に話しかけた」
という、たくさんの考えと葛藤、そして勇気ある一歩がありました。
行動の大きさではなく、「その人にとってどれだけ挑戦だったか」に
目を向けることが育成の本質です。
③上司や経営者は「優しいつもり」「フレンドリーなつもり」でいても、
相手にとっては「すごく年上で、ちょっと怖い存在」に映っている
ことがよくあります。
新入社員の多くは、社会人としての“最初の他人との接触”に、
常に緊張と不安を抱えています。
だからこそ、「話しかけやすさ」や「見守られている感覚」を
意図的につくる必要があるのです。
この経験から、私はあらためて実感しました。
「わからない」の奥には、言葉にならない思考や努力がある
小さな行動の中にこそ、“成長の種”が宿っている
育成は“教える”だけでなく、“信じて見守る”ことも含まれる
新入社員は、未来そのものです。
だからこそ、私たちがその未来にどんな期待を寄せ、
どんなまなざしで関わるかが、とても大切だと感じます。
「何を考えているのかわからない」――
その言葉の先には、たくさん悩み、迷いながらも、
今を一生懸命生きている若者たちの姿があります。
彼らがこれからどんなふうに社会人として育っていくのか。
その成長をそばで見守れることは、
上司として経営者として何よりの喜びです。