ひとそだちの応援団 研修の現場から

人材育成のヒントやお役立ち情報を掲載しています。

近年、事業承継という言葉を頻繁に目にするようになりました。
これは、経営者が築いてきた会社を次の世代に引き継ぐことを指します。
しかし、現場で研修を行う中で、よく目にするのが
「会社のことを全く知らない息子や親族に事業を承継させるケース」です。
もちろん、優秀な後継者が経営を担うことは大変良いことですが、
現場には課題が生じることも少なくありません。
その一つが「後継者と既存社員との隔たり」です。

この状況を見るたびに、映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』の
有名なセリフが思い浮かびます。
「事件は会議室で起きているんじゃない!現場で起きているんだ!」

例えば、大手企業を辞めて家業に戻り、
社長の意向でいきなり専務に就任する後継者がいます。
大手企業の風土は理解しているものの、
中小企業の文化には不慣れです。
それでも経営を引き継ごうと孤軍奮闘し、
これまでの知識を活かして会社改革に取り組みます。
新しい手法を導入し、幹部社員が知らない、
または実践できないスキルを駆使して戦略を立てていきます。

しかし、幹部社員にとっては戸惑いの連続です。
「こんなことも知らないのか?」「こんなこともできないのか?」と、
自分たちのスキルの低さを痛感させられる場面も出てきます。
後継者は懸命に経営に向き合いますが、
同じ感覚を持つ仲間がいないことに次第に不安を覚えるようになります。

あるとき、後継者に「社員との共通言語がないのでは?」と尋ねると、
「そうなんです…」とポツリと答えました。
その言葉から、
彼がどれだけ努力しながらも孤立しているかが伝わってきました。

後継者が現場に足を運ぶには、
単純なことのようで実は大きな勇気が必要です。
これまでのキャリアでは経験したことのない領域であり、
周囲の幹部にとっては当たり前のことでも、
後継者にとっては高いハードルとなります。
1回だけの訪問なら単なる挨拶で済みますが、
2回、3回と続くと「また後継者が来た」と社員が警戒することもあります。
後継者にとっては、
社員一人ひとりの情報がない状態でのコミュニケーションは、
まるで未知の領域に飛び込むようなものです。

このアウェイな雰囲気を変える鍵を握るのは現場の管理職です。
しかし、管理職自身がその重要性を認識していないことも多いのです。
「普通にやればいいじゃないか」と軽く流されることもあり、
共感力の低さが浮き彫りになります。

事業承継の問題は、社長と後継者だけの課題ではありません。
社員の気持ちに寄り添い、
同時に後継者の立場にも共感する管理職の役割は非常に大きいのです。
後継者を「雲の上のリーダー」にするのか、
現場と調和した経営者にするのかは、
既存の管理職の対応にかかっています。


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